ハリポタの寮分けタグがあったので、それに合わせた山伏のお話。
もろもろ捏造と妄想の産物。
たのしかった!!!!(配信遅刻した!!!!)
「授業が分かりません。」
「……私、言いましたよね、英語はやっておけと。」
食堂に突っ伏している私に姉はにべもない言葉を掛けてきた。目の前でアフタヌーンティーを嗜む姉、歌野鶴葉はグリフィンドールの4年生だ。
多少抜けているものの、成績も優秀で、日本出身であることを感じさせない語学力に人当たりの良さから、かなり人気がある。それは、先月入学したレイヴンクロー寮生の私の耳にもよく届いている。
白樹冬萌、歌野鶴葉。
私たちの名前を聞いて姉妹であることを気付く人はいないが、それ以上にこの学園の生徒はそもそもアジア人に少しも興味を抱かない。
「なんで魔法使っちゃいけないんですか?」
「全員が普通にできるからです!」
「できない方に合わせてくれてもいいじゃないですか、それか魔法使うことを許してくれてもいいじゃないですか!」
「ここは学校ですよ、卒業するまでは許可のない魔法の使用は許されません。」
「はぁー……とりあえず姉さん、勉強教えてくださいよぉ。」
「私も決して暇なわけではないのですが。」
「Oh, what is the yellow monkey imitating?」
嫌なことを言っていると分かる声色に、私の気持ちに火がついた。姉さんとの楽しいティータイムを邪魔するなんて、と立ち上がろうとした私を姉さんは小さく名前を呼んで首を振る。目線だけを上げると、姉さんの後ろにはニタニタと嫌な笑みを浮かべる緑のネクタイが視界に入った。スリザリン寮生。決して全員が悪人であるとは信じられないけれども、ちょっと排他的すぎるその生徒の物言いは嫌いだ。しかし、その後も何か言っている彼らに鶴葉姉さんはただ黙ってカップを傾けているだけだった。
「Listen , cheeky kid .」
その言葉に姉はピクリと眉を動かした。僅かに振り向いて何事かをこそりと呟いてまたカップに視線を戻した。すると後ろの一人が目を細めて、私にも聞こえるように何かを口汚く罵るようなことを言った。その中にひとつ、私にも分かる言葉があった。
Death Eaters。その言葉に私の中の何かが切れた。
机に脚をかけて、踏み切る。飛び上がった体に驚く周囲など気にも留めず、もう片方の脚でその言葉を発した金髪の顔を思い切り蹴りつけた。
「止めなさい、冬萌。」
掴みかかる勢いの私を止めたのは、凛とした姉の声だった。腕を掴まれたわけでも、抱きつかれた訳でもないのに、私の体はまるで金縛りにあったかのように固まった。英語圏のこの学園で、姉の放った言葉はきっと誰も分からない。それでも私には他ならない抑止の言葉だった。
そして私に触れることはないまま、鶴葉姉さんは立ち上がり3人のスリザリン寮生を見下ろした。私が蹴りつけたことで地面に伸びている一人、ビビって腰を抜かした二人にはきっと今までより姉が大きく見えたことだろう。
しかし姉は私や周りで見ていた生徒たちの思惑を裏切って頭を下げた。
『妹の非礼を、お詫びします。』
私でも分かるレベルのゆっくりした単語の羅列。そこで私は今まで姉が四年間積み上げてきたものを知った。
「But your words deny my life. Please promise not to say it again. It's also for my sister here.」
続く言葉は私には分からなかったけれど、周囲は水を打ったように静まり返っていた。少なくともこの小さな東洋人が言うような言葉では無かったのかもしれない。その瞬間、私は見逃さなかった。ビビり散らしているうちの一人が姉に向かって杖を向けようとしていた。
「姉さん、危ない!」
「えっ、あ!?」
その後のことは覚えていない。無我夢中で姉の体を突き飛ばして、杖から飛び出した光を体に受けたことは何となく覚えている。次に私の意識が戻ったのは夜の医務室だった。その時、傍らからはすすり泣くような声が聞こえていた。聞きなれた日本語に、鶴葉姉さんの声だった。
「……私が、甘いせいで貴女をこんな目に合わせてしまった。もっと、もっと強く言うべきだったのに。」
違う、そうじゃない、と言いたくても倦怠感の強さに声帯ひとつまともに震わせることが出来なかった。姉はぽつぽつと言葉を零す。
「雪輪ねぇ様が……学校を辞め、はは様を探しに行ってからもう一年も経つんですよ。それが余計にこの学園では怪しく思われた。」
私たちはそれぞれ理由は違えど、日本の一般人から生まれた魔法使いだった。所謂、両親共にマグルというやつだ。それを保護して、学校に通わせてくれていたのが、この学園で魔法生物学を教えていたどーるさんだった。
しかし彼女の行方が分からなくなったのが四年前、ちょうど鶴葉姉さんが入学した年だった。三年後、つまり、去年の夏に私たちの中で一番年上だった雪輪姉さんが学園を辞めて母を探しに行った。
母の失踪についてはいくつもの噂があり、その一つが、死喰い人になったというものだった。いつも袖の長い服で肌を隠していたのは印があったからだ、などと最早根も葉もない噂がたっていたのがきっと耐えられなかったのだろう。勇猛果敢、その寮のモットーを欲しいままに雪輪ねぇ様は母のいないホグワーツを抜け出した。
「昔ね……貴女が私や雪輪ねぇ様に言ったことがあったんです。私も同じ寮に入るって。姉として、私は誇らしかった。でも……はは様の悪口に何も出来ず、ただ頭を下げる私は勇猛果敢でも仲間思いでもなんでもない。今は自分が……恥ずかしくて仕方ありません。貴方の方が、よっぽど……よっぽどグリフィンドール寮に相応しいのに。」
懺悔するように呟かれたその言葉に、私は動かない体を呪った。
「彼らが言ったのはね……私の本当の両親のことなんです。」
ぴくり、指に力が入った気がした。
「私の本当の両親は、死喰い人だった。それを……それを、彼らは私が生まれた時に本当の愛に気付いたのだと、はは様が教えてくれたんです。」
あぁ、まさか、そんなこと。
「だけど彼らにはそんなこと関係ないのでしょうね、私が諸悪の根源だと。私も……死喰い人ではは様とねぇ様を唆したんだと。」
ぐっと力を入れて姉の腕を掴んだ。祈るように組まれた拳につけていた顔が上げられ、涙でぐしゃぐしゃのその幼い顔は驚愕の色に染っていた。
「冬萌ちゃん、起きて……。」
声にならない声、うっすらとしか開かない視界。それ以上に熱い何かが零れ出して、私もぐしゃぐしゃだった。
違うよ、姉さんは違うって私は知っている。
そう言いたくても出ない言葉に、もどかしさからまた涙が止まらない。
「……はは、私は本当に、馬鹿ですね。貴方という、聡明な妹が何も知らないはずないですよね。」
「……。」
「マダム・ポンフリーを呼んできます。」
零れた涙を掬いあげて、鶴葉姉さんは微笑んだ。今はまた少しだけ、あの背中が大きく見えた気がした。
このあと何やかんやあって、雪輪ねぇさまも眼隴くんも含めてみんなで死喰い人のアジトに行って、連れ去られたはは様を助けて帰ってくる。
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