狗神赫犬さんとやっている人外BAR赫葉のゲストが少なくて二人で飲んだくれていたが故の産物です。
「……不味いですねぇ。」
困ったように首を傾げながら鶴葉はため息をついた。月に一度しか開店しない人外BAR赫葉、その帳簿を見ていた彼女は数字を打ち込む手を止める。
「理由は分かるんですけど、やめられないのか酒飲みの性と言いますか、良くないと思いつつも、ついついカシュッと……。」
「……俺は何も見ていない、聞いていない。」
「赫犬さん、そこ、座ってくださいね。」
「えぇ……。」
「さて、分かっているとは思いますが。」
「いやぁ……まぁ………。」
「本気と書いてマジと読むレベルにヤバいです。」
「元々はほら……2人で話す場が欲しいって話だったじゃないですか、BARになるとは……。」
帳簿とにらめっこをしていた鶴葉を横目に逃げ掛けた赫犬を、彼女が逃すはずはなかった。いつもは2人で立つカウンター内に鶴葉が立ち、ここ最近はほぼ客に座られることがなくなったカウンターに赫犬が腰を下ろす。しょうがない、とは思いながらもやはりどうにかしなければという思いも少なからずあるのが現実だ。
「稼ぎましょう。」
「かせぐ?」
「えぇ、稼ぐんです。ここ最近いい話を耳にしまして。」
「……俺やっぱやめます、帰ります。」
「あーかーいーぬーさーん?」
「うそうそ、そういう上手い話に乗っかるタイプじゃないでしょ、鶴葉さん、やだ、ほんとやだ!」
「やだとかなんとか聞いてないんですよ、私と貴方で、酒代を稼ぐんです。」
「……ちなみに、何ですか?」
諦めたような赫犬にふっと笑みを浮かべた鶴葉は、カウンターの下から1枚の紙を差し出した。
「APEX?」
「はい、APEXゲームへの参加権です。ここのように現実と夢幻の狭間にあるところにはこういった案件がちょこちょこ落ちているようです、うちにもこの間届いたんですよ。」
「……まぁ、それなら。」
「ね、FPS得意な赫犬さんですからね、きっと力を貸していただけると思いました。さぁ、手続きをしていきますよ。」
「え、あれ?なんかそんな風にトントン拍子に行きます?え?」
「ほら、店閉めますよ。善は急げです。」
「たーずーはーさーん!」
このあとめちゃめちゃ
APEXゲームに参加した。
みたいな展開があっても悪くないんじゃないかな、と。
0コメント