白紙化された世界を救う旅をしているZくんの話。 FGO2部6章後半ネタバレ有り。
はっ、はっ、と短く息を吐く。
何もかも足りない、いや、足りないことはないはずなのだが、と意味の無い問答が頭の中でぐるぐると回っている。助けて欲しい、そう縋る相手は此処にはいない。誰もが誰にも縋らずに自分のやることをやっている空間は少し他人行儀な気がして寂しく思う。
「なんて顔、してるんです。」
ぽん、と手が置かれる。あぁ、いやだ。こんなにも早く「貴方」を出撃する決断をしてしまう自分が。まだだと思うのに、迫りくるタイムリミットに少しの猶予が欲しくて縋ってしまう。
そしてまた。
「マスター。」
「っ……ロビン、フッド。」
「一つだけ、約束してください。」
「え、なに……?」
「あの人を、こちら側に送らないこと。」
「っ、そ……れ、は……!」
「状況はあんたと縁を結んだ奴なら全員分かってる、もちろん、あんたの心も。」
「違う、違うんだ……違う、俺が、俺がちゃんと育てていれば……。」
「だから、あの人は手放しちゃいけないんだ、マスター。」
弾かれたように顔をあげれば、明るいオレンジの髪が揺れる。
「やっと、目合いましたね。」
「……ごめん、ごめんね、ロビン。」
「心配すんな。これに懲りたら、他のメンツのレベル上げも頑張ること。」
「ははっ……帰れる、保証なんて、ないのに。」
「ある。」
「なん、で……?」
その英霊は笑っていた。
ロビンフッド。顔のない、名前のないイギリスの義賊。数多に存在した誰かの一人。
「俺がいて、あの人があんたの傍に居ることを約束させたからだ。」
「……あ、ぁ。」
「キャスターのアルトリアや性悪狐の力なんかを借りなくても、俺の宝具は強い。そう信じるマスターの期待に応えてやりますよっと。」
「ロビン……ロビン、約束する、必ず。」
「あぁ、そんじゃ、行きますか。」
立ち上がる。震えた足はストームボーダーのせいにして、歯を食いしばって立ち上がる。まだ折れてはいけないのだ、と令呪の無い右手を握りしめる。
「行こう。」
やれることはやる。イ・プルーリバス・ウナムで、セイレムで、そしてトラオムで見た英霊の、人理に選ばれた英雄の在り方を貫き通してみよう。こんなにもちっぽけでダメな人間でも、真似くらいはできていい。
「マスター、信じてますよ。」
「必ず。」
それを聞いて彼が放った弓は、強大な敵の真核を捉えた。しかしそれで歩みが止まるはずもなく、その触手に捕らわれて消えていった。
「行ったか。」
「……!」
「見事なものだ、奴は何と。」
「……っ、あ……ぃ、……は、……あなた、を。」
「我を?」
「貴方を、最後まで傍に、ここに……俺の隣に、居て、ください……。」
「……そうか、ならば前を向け、我がマスター。」
「、ぃ……は、い……。」
「カルデア最高戦力の一角が誂えた猶予だ、よく見よ。我は此処に居て、貴様が守りたいと願うシールダーも耐えている。」
「……はい。」
「無尽蔵な体力に見えるか、無謀な敵だと思うか。」
「……いいえ、思いません。」
「ならば、今までの縁を全て使って見せよ。」
「っはい!」
前を向く。横を、後ろを振り向くことはしなかった、ただ前を見据える。
巨躯を打ち砕くために、歴史を守るために、星を存続させるために。
2023.2.8 空想樹切除
0コメント