設定は #VirtualCombatです。
金麦の妖精さん編です。
「やばーい、ごめーん、うわぁー!」
女性にしては落ち着いた、それでいてよく通る声が聞こえて振り返る。長い筆を小脇に抱えながら、背後の爆発を利用して飛んできた存在がしゅたっと隣に着地する。始まるぞ、覚悟をした途端にぐん、と腕を引っ張られた。待て、これは予想外だ。
「あいつやべぇわ、逃げよ!」
「うっそだろ、お前!?」
「無理無理、私や志摩くんじゃ太刀打ちできない、まめ……こむ、いやこの2人も無理だわ、鶴葉さん呼んでこよ。」
「いやいやいやいやいや何言ってんの!?あんだけ一人で行けるって息巻いといて今更!?馬鹿なの!?」
「ほら、早く、連絡、相談、報告!」
「せめて報連相の順番守れよっ!」
ガスンガスン、と重たい音が背後で響き、あるかないか定かではない内蔵が震えるほどの衝撃を断続的に受け続ける。腕を引く彼女、はとに急かされて左耳にいれたイヤフォンに触れる。
「エマージェンシー!全員出動!鶴葉さん、ヘルプ!」
その言葉に短く了解、という言葉が2つ、返される。いやいや、それはそれで可笑しいだろ、お前ら。という僕の言葉を言ってくれたのは他ならない鶴葉さんだった。
「ちょっと、はとさん!一人で行けるって言ってたじゃないですか!」
「そう、それ!それ言って欲しかった!」
「思った以上に志摩くんがただのチャラ男だった、以上!」
「技能使わせなかったの、お前のせいだろうが!?」
「私今別案件抱え込んでいるので行くの遅れるので、とりあえず……いのちだいじに!」
「あ、次の実況はドラクエなんです?」
「んなこと言ってないでさっさと走れ、馬鹿野郎!」
もう間近に迫る生命体の足にドギマギしながらも、腕を引っ張るその体に手を置いて小さく呪文を唱える。自分の能力で彼女の身体能力を上げてやれば、少し生命体から距離が取れる。すると、その刹那、2つの光が視界を過ぎった。
「さっすがー、早い!」
「っ、まめ、そいつ、マジでやばいから!こむさんも下手に近付かな……。」
「え?何?」
駆けつけた仲間であることに気付いたためにそう声をかけると、一閃、敵性生命体の首元に何かが光る。先に届いたのは光で、その後に金属特有の高い音が響く。
刃を煌めかせて空中で体を反転させた蒼いそれはふるふると頭の上の特徴的なマスコットを叩いた。と同時に、僕らの共通の回線が開かれた。
「こむさぁーん、こいつ切れるわ。」
「了解です、じゃあちょっと体を……っし、まめ、やっちゃって。」
「うい。」
僕達の間をすごいスピードで駆け抜けていったのは、何もまめだけではない。もう1人、その身のこなしはまるで猫のようだと思えるようなそれはがっしりと敵性生命体にしがみついた。この体はデータの体だから、とよく言うが、それでも得体の知れないものにしがみつけるその心意気どういうもんだとやはり感じてしまう。
「ねぇ……ねぇ、ちょっとやっぱあの二人可笑しいよ。」
「ん?何が?」
「いや、てか、まめ切れるって言ってっけど、なんでお前、そんなすごすご帰ってきたの?」
「いやぁ、切りどころ悪かったのかなぁ、なんかちょっとあんまり手応えなくて。」
「はあぁ〜?」
「やっぱあの二人は現代人じゃないだけあって強いねぇ!」
「もうほんとお前なんなの?」
僕達は金麦の妖精さん、と呼ばれる存在である。今隣にいるはと、敵性生命体と戦うまめ、どっとこむ、それに僕を含めた四人は生まれも育ちも、性別も年齢も、生きた時代も死因も、全てが異なる存在だった。上手くいくというよりは、上手くやっている、という方が正しいようなバラバラの四人ではあるが、その大元はというと、鶴葉さんが関わっている。
「あぁー、ダメだ。」
「え?まめ?」
「こむさん、ちょっと、投げて。」
「えぇっ、まめ!?」
「あ、強化よろしく。」
「はぁっ!?」
「はとさん、受け止めてもらっていいっすか?」
「よし、来いよ。」
「……っ、お前なァ!」
「まめェ!」
諦めて刀を収めて体を投げ出すまめに、敵性体を抑えていたこむさんと、何故か急にバフをかけられることを請われた僕が同時にやつを責める。
しかし頼られて断るほど自分の中の心が死んだわけじゃない。まずは自分の足に、先程はとさんに施した強化を二段階、そして敵性体の下にいるこむさんに近付く。頭上で落ちてゆくまめに対しては遠距離で届いたか分からないが、防御力のバフをつける。見慣れたガスマスク姿が見えて、その背中に自分の手を叩きつける。
「おらぁ!」
「いった!?そんな全力でやらなくても良くないですか!?」
「うるせぇ!ストレス溜まってんだ、こっちは!ツッコミ疲れで!」
「八つ当たりぃー!っ、おぉらぁ!!」
こむさんの背中を叩いたことで、こむさんにはおそらく全ての能力が四段階上がっているはずだ。元のSTR、筋力が高く設定してあるはずだからこれくらいを投げ飛ばすのは問題ないはずだ。
僕の見立て通りにこむさんの筋肉は形を変えないまま、すぅと熱を放出する。今はバフを掛けるしか能のない自分が近くにいては迷惑が掛かる、そう思った瞬間に、聞いた事のない悲鳴が聞こえた。
「あああぁっ!?!?」
「こむさん!」
「やっば、い……これ、なんか……溶けてる!っ、やば、志摩くん、逃げて、やばい……っ!」
敵性存在がおかしな挙動をすることはよくある事だ。人ではない僕らですら予想のつかない動きをするのだから、他のVtuberたちが対応出来るのが不思議なくらいだとすら思う。
そして考える。ここで1人を残して離脱はどう考えても「格好がつかない」。
溶ける敵性体に飲み込まれかけているこむさんのジャケットを掴み引き抜こうとすれば、案外それは簡単に叶った。左耳のイヤフォンに触れて僕は叫んだ。
「……まめ、はと、離脱!離れろ!」
「了解、スマホだけは拾ったげるね!」
「すまん。」
「勝手に……殺すんじゃねぇ!」
ぐん、とそのジャケットを引き抜いて、自分の足元に即席で描いた方陣が光を強める。飛び出たこむさんはどうやら何かしらの衝撃で意識が無いらしい。そして僕も逃げようと、した、その時だった。
「え……?」
死ぬはずがない。
死ぬわけじゃない。
何より自分は一度死んでいる。それだというのに、足元から何かが崩れていく感覚を覚えた。これは、死の恐怖に近いものだ。
描いた方陣が液体と化した敵性体に犯されているのを見たのと、体の中に何かが入り込むのを感じたのはほぼ同時だった。イヤフォンに手が伸びず、そのままあとは飲み込まれるのみだ。
「う、そ……だっ、ろ……?」
「あああぁっ!!!!離せぇぇぇっ!!!!」
ぺちゃぺちゃという音。どこか聞き慣れたインクが弾ける音だった。視界が閉ざされる瞬間に見たのは、ピンクの激しい水しぶきだった。
「っしゃあ!!」
バシャバシャとその長い筆から飛び出すネオンカラーのピンクが敵性体から僕を解き放つ。色に弱いのか、はたまたこの暴力的なまでの光の力か。伸ばした腕が掴まれた。
「ほんとに死にかけるやつがあるか!?」
「……うっせ。」
「いいから帰るよ!」
「待っ……、まだ、終わって……。」
「大丈夫ですよ。」
早い光も、強い光も、煌めく光も何もかもが霞むくらいの光源だと、僕は思う。これが人間であっても、人間でなくても、きっとこれが。
「私が、やります。」
白い翼が広がって、赤く輝く薙刀が一閃。意識が途切れかけた僕の目にも見えたのだから、不思議なものだ。それだけで、もう大丈夫だと思えてしまう。
「よくも私の部下をやってくれましたね、まぁあの人たちも油断したのが悪かったのですが。」
振り上げた赤い炎が振り下ろされて、液体を焼く。残る大きな巨体を一度、二度、三度、とその小さな体が斬ってゆく。首、腹、腰、完全に分かたれたそれを、頭上まで飛ぶ軌跡が往復した。
最後に聞こえたのは、ザン、という海の水をわかたれたような音だった。そういう音を聞いた訳では無いけど、きっとモーセが海割った時の音ってこんな感じだと思うんだ。
*
「さて……あなた達、私に言うこと、ありますよね?」
「すみません。」
「ごめんなさい。」
「ビール飲んだのは私じゃないよ。」
「……はぁ。」
鶴葉さんの拠点に戻り、僕らは、否、僕以外が鶴葉さんに怒られている。
「はとさんの無謀を信じた私も馬鹿でした、でもそれを分かっていながら突貫したのはまめくんですね、追随したこむさんもどうかと思います、そして。」
「いや、僕悪くないでしょ?」
「連帯責任、です。」
「うっそだろ……。」
「……と言いながら、まずは無事でよかった。安心しました、あの敵性体に飲み込まれたのが、こむさんと志摩くんでよかった、いや……うん、ほんとに。」
「え?」
「は?」
「ん?」
「あ?」
「あれ、もし間違えてはとさんが飲み込まれていたら不味かったです。イカのゲームのインク関連だったみたいなので。」
「あぁ……なるほ、ど……?」
「とにかく!!」
もう二度と死ぬんじゃないですよ、と言った彼女の瞳からほろりと何かが零れたのを見て、僕たち全員がとんでもなく慌てたのであった。
金麦の妖精さんA
志摩
バフデバフ術士の側面を書いてみた
金麦の妖精さんB
まめ
刀だけだと思うでしょう?
金麦の妖精さんC
はと
パブロより頭の方がきっと回る
金麦の妖精さんD
どっとこむ
筋力しか思いつかなかった
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