VLEACH(版権入り込み)

WJ脱色夢小説もどきの何か
Vtuberが世界に入り込んでいる
とある配信の副産物
やりたいだけ

「助けてください、斑目三席。」
「……は?」

その日、十一番隊に滅多に来ない「客」が来た。
八番隊の平隊士である狗神赫犬。平隊士らしからぬ力量ではあると思うが、如何せん八番隊は有能な死神が多い隊でもある。寝首でも搔いてやれば、と何度が助言したがそれは出来ないときっぱり断られた。じゃあ引き抜けば、という弓親の言葉に若干惹かれたものの、流石に奴の信条を折ることは出来なかった。
しかしそんな俺に心を許したのか何なのか、たまにこうして助けを乞いに来る。お前自分の立場分かってんのか、とドヤしたいが、そう、この男、来る度に何故かげっそりしてくるのだ。

「もう、いっそ、俺の事……。」
「やめろやめろ!んなこと言うな!ここどこだと思ってやがる、十一番隊の鍛錬場だぞ!」
「もう無理です、やっぱ俺、あそこじゃやってられないです!」
「があぁ、だから!!」
「周りが怖いんです!」
「分かった、分かったから、おいこら、弓親ニヤニヤしてんじゃねぇ、副隊長も走っ……隊長んとこか、おいこら、待て!」

十一番隊の鍛錬場の中心で泣き崩れる赫犬を前に、俄に色めき立つ隊士達に一発ずつ拳を叩き込んでいく。このままじゃマズいと隊士達を締め出して、未だに鍛錬場の床に突っ伏している赫犬の前に腰を下ろした。

「なんだなんだ、一体なんだってんだ。」
「……すみません、なんか、お手数おかけしてしまって。」
「なら、そんなんなるまで抱え込んでんじゃねぇ。」
「俺も……そうしたいのは、山々なんですけどね……。」
「とりあえず何がどうしたってんだ。」

そう言うと、居住まいを正した赫犬が事の顛末を話し始めた。

「最初は……いつもの、飲み物絡みの、その……話かと。」
「いつもの、で理解出来る俺が嫌だけど、いつもの、だな。」


*


その日は八番隊の有志が集まった夕食会、とは名ばかりの飲み会だったと、赫犬は言った。隊長の京楽が催すものとは言え、自由参加であり、かなり緩いものだと斑目たちを始めとした他の隊はそう聞き及んでいた。斑目の十一番隊のように酒盛りメインではなく、料理も豪勢で美しい見目だとか。

「こまちゃーん、呑んでるぅー?」
「はぁっ、もうどーるさん、酔うの早すぎません!?」
「やや、だってこれめーっちゃおいしいんだもん。」

思えば、赫犬はこの時から違和感があったらしい。普段酒に酔うことなどほとんど穏やかなこのご長寿席官である土潤がベロベロに酔っていたという。ただその時は赫犬自身もある程度酒が回っていたし、そんなもんかと流していた。
が、状況は徐々に変化していく。

「まぁ賑やかな会で。」

穏やかな声音が庭の奥の方からゆらりと聞こえた。赫犬がふと振り返ると、そこにはにこにこと笑う三番隊隊長市丸ギンが立っていた。その声に気付いたのがどうやら赫犬だけであったらしく、立ち上がり、用向きを伺おうとした瞬間だった。

「っ、え……?」

歪んだ視界が赫犬の体の力をも抜き、立ち上がるはずの体がゆっくりと縁側に吸い込まれる。何秒か後に訪れるはずの衝撃を覚悟して目を閉じたその体は、彼の覚悟に反して細い腕が支えていた。

「なんでここにおるん、冬萌ちゃん。」
「市丸隊長こそ、何故こんなところへ?」
「……あ、れ?」

細い腕。赫犬は市丸に支えられたものだとばかり思って目を開けば、その体を支えるのは三番隊の隊士である白樹冬萌であった。しかし、何よりも体が熱く、ぼうっとする頭ではその異常さを理解することが難しかった。

「赫犬さん、しっかりなさってください。それでも八番隊の席官を目指す身ですか?」
「え、あ……ふゆ、め、ちゃん?」
「もう……シノブさん、出すの早すぎなんですよ。」
「へあ……?」

ジト目で睨まれながらも縁側に寝かされた赫犬はそこで意識を手放した。それを見ながら、冬萌は自隊の隊長に向き直る。

「市丸隊長、八番隊の飲み会に出席されるだなんて私聞いていませんが?」
「言わんでも知っとるやろ?」
「……それとこれとはまた別ですね。」
「この通り、着いてきとるんやから、なぁ。」

仕方無しと言わんばかりに眉を下げる市丸に、めげる様子もなく冬萌は頭を下げてにこりと笑う。

「私はこう見えて、吉良副隊長からもお目付け役としてお墨付きを頂いていますから。」
「そらあの子もやることあるさかい、ボクの面倒見きれんだけやろ。」
「というわけで。」
「わぁ、この子ほんま強いわ。」
「何か言われましたか?」
「いいえ、何も。ほな、冬萌ちゃんも参加したらええねやんな。」
「市丸隊長のお側で、しっかりとお酌させていただきますね。八番隊の悪い虫が付かないように、しっかりと、さながら蛇のように目を光らせておきますので。」
「わぁ……。」

とんでもない言いように市丸ですらその口角がひくつく。しかしこの在り方も彼女を気に入ったひとつであり、飽きさせない要素でもあると市丸は縁側からその宴会へと身を投じた。

「どうも、ご無沙汰です。」
「おや、本当に来てくれるとは思わなかった、まま、座って座って。」
「京楽隊長直々にお誘い頂けるなんて、光栄の極みですわ。」

市丸が真っ直ぐに目指したのは上座に座る八番隊隊長の京楽の元だった。本当に彼は、たまたま偶然、会議の後に「いい酒を用意したから来ないか」と京楽に誘われてこの場に参加していた。

「またまた、そういう硬いことは言いっこなし……おや、そちらの別嬪さんは?」
「白樹冬萌と申します、昨年真央霊術院を卒業式、若輩者ながら市丸隊長の補佐をさせて頂いております。」
「個人的な、ですけどね。」
「市丸隊長?」
「なんもないです、その通りです。」
「あっはっはっはっは、これは期待の新人だねぇ。いいねぇ。」
「もうからかわんどいてください。」

そう言いながら、京楽の手から注がれる酒をグッと呷る。

「うわ……なんです、この……きっつい香りは。」
「いやぁ、ね?十二番隊の、仙界くん、知ってる?」
「あぁ、あの……変態仙人とか呼ばれてる。」
「彼から、いいお酒を貰ってねぇ。なかなかうちの隊って酔っ払ってくれないからさぁ、今日はあれこれ滅多に聞けない心の内側を見てみようと思って。」
「ははーん、それをようボクに飲ませましたね?」
「だってそりゃ、そこの別嬪さんが今すぐ飲ませないと殺すぞって目で見るからぁ。」

あぁ、と市丸はそこで全てを納得した。仕組まれた、否、仕組まれたところに投げ入れられた、というのが正しいのだと彼の残り少ない理性がそう結論を出す。ふらふらと足元が覚束無い八番隊平隊士の赫犬の様子も、これで納得がいった。

「こら……あきまへんわ。」

くらりと揺れる頭で、乾いた笑みが零れる。こういう時ばかりは、頼りになる副隊長に敢えて話さなかったのが痛手だったか。いや、もしかしたら、とそこまで考えて彼の意識も持っていかれてしまった。

「市丸隊長?」
「……。」
「あれまぁ、寝ちゃったねぇ。これはちょーっと強すぎたんじゃないのかい、仙界くん。」

くてん、と机に突っ伏してしまった市丸を興奮寸前の目付きで見ている冬萌から視線を外した京楽は、隣で平然とその酒を飲む隊士を見る。十二番隊に所属する貴重な戦闘員かつ拷問を含めた技術の先駆者。仙界シノブはただ幸せそうにその酒を飲んでいた。

「や、これは自白剤とかそういうんじゃなくってただの強い酒、ですから。」
「嘘だぁ、うちの赫犬は結構強いし、土潤ちゃんなんてここ数百年酔ったとこ見てないけどー?」
「まぁそれはそれですよ、ね、冬萌さん。」
「シノブさん、データは取れました?」
「はい、もうバッチリです。こちらとしてはもうやることも無いのでササッとお暇して報告書に纏めたいくらいです。」
「ほんと……君らはすごいねぇ。」

苦笑いを零しながらも京楽はふと天を仰ぐ。複数人の離脱者が出たあの事件からしばらく、こうしてゆっくりと酔いを回すことすら出来ない隊士たちが多いことに気を揉んでいた京楽にとって、このシノブの申し出は願ったり叶ったりだった。ついでによからぬ事を企む者が隊内にいればすぐに対処ができる、その程度に思っていた。もちろんそんな輩はついぞ発見できずに、日付が変わる前にも関わらずその宴会場は夢の世界が広がっていた。
この件に際して、市丸を誘え、というのはこの歳若い冬萌という死神の存在がくっついできたことで合点がいった。
もはや京楽が気を揉むことは何もないのだ。

「冬萌ちゃん。」
「はい、なんでしょうか。」
「市丸隊長のこと、よろしくね。」
「……というと?」
「昔っから、しっかりした子だったから。」

その言葉は嘘ではない。今でも実力の高さと内面の幼さの乖離が酷く不安ではあるものの、徐々に独り立ちしてきたように京楽は思っていた。それが良くも悪くも彼を孤立させるのではないかという不安も同時に抱えることにはなっている。

「任せてください、市丸隊長のことは地獄の果てまで追いかけていきますので。」
その言葉が嘘ではないことを、京楽が知ることになるのはもう少し先のことであった。


*


「というわけなんですよ。」

ニコニコと笑うシノブの前で頭を抱えているのは三番隊副隊長の吉良イヅル、そしてその横で素知らぬフリを通そうとしている水那月玲である。

「どうりで今朝方から隊長の姿も白樹の姿も見えないわけだ……。」
「ねぇ、不思議だなぁとは思っていました。」
「水那月、君は知っていたんじゃないのか?」
「いえまさか、そこまでの情報共有は我々しておりませんので。」
「そこ、まで?」
「……。」
「あ、ところで玲ちゃん、新しい監視映像機器、いつ渡せばいいですか?」
「監視映像機器!?」
「あ、今頂けたら。」

パクパクと口を開ける吉良に玲は迷いなくシノブから機材を受け取る。そしてそれを1度掌で確認してから、何の迷いもなく吉良の死覇装の襟部分に取り付ける。

「ひぃ!?」
「あ、間違えました。」
「大胆ですねぇ。」
「みみみみ水那月、一体どういうつも……!」
「すみません、これは市丸隊長の分だと冬萌と約束していたんでした。失礼しました。」
「いいいいい市丸隊長おおおお!!!」
「あれー、玲ちゃんにイヅルくん、やほー。」
「あ、土潤さん、こんにちは!」

吉良の絶叫の隙間にひょっこり現れたのは八番隊の熊森土潤。昨夜の飲み会でほろほろと酔っていたということは玲の耳にももちろん入っていた。赫犬や市丸が起き上がれないほどの強力な精神剤が入っていると聞かされているので、彼女がこうして何の問題もなく歩く姿は少し恐怖映像にさえなっていた。

「シノブくんやい、うちのこまちゃんが全く動けないからどうにかして欲しくてねぇ。」
「あぁ、半日寝たら大丈夫ですよ。」
「あ、ほんとに?じゃあいっか。」
「もし半日すぎてもどうにもならないようなら呼んでくださいね。」
「あい、りょーかい。」
「ところで、土潤さんは何ともないですか?」
「ウチ?ウチはねぇ、雰囲気酔いだね。昨日は楽しかったぁ。んじゃ、またねーん。」

シノブの質問を諸共せずにヒラヒラと手を振って十二番隊を後にする土潤の背中を見送り、シノブはくくっと堪えきれない笑みをこぼした。

「はぁ、ゾクゾクするなぁ、ああいう人。」
「シノブさん、土潤さんも飲んでたんですよね?」
「もちろん飲んでましたよ。」
「……あの人ヤバい人?」
「っ、君らが全員おかしいだろう!」

一連の会話を聞いてしまった吉良の精神力が持たなかったらしい、いつもの冷静沈着さを擲ち叫ぶその姿が、しばらく十二番隊内で話題を呼ぶこととなった。


*


その全ての話を、十二番隊の話も含め、何故か途中から会話に加わった冬萌、玲の両名から聞かされた斑目は思わずその中心で小さくなっている赫犬に同情した。

「それで赫犬さん、お身体の方は?」
「……バリバリ元気です。」
「何故二日酔い如きで四番隊に?」
「……ただの二日酔いじゃない気がして。」
「そうですかぁ、まだまだ飲み足りないって感じですか?」
「ちちちち違いますっ!」
「なぁ、もうその辺にしてやっ……。」
「斑目三席もお酒、飲みます?」
「私たちと一緒に飲みましょうか?」
「……いや、結構。」
「斑目三席っ!」
「あぁ、その、なんだ……頑張れ。ほら、他隊士は出てけ、修練の邪魔だ。」
「斑目三席ぃぃぃぃい!!!!」

それでもやっぱり我が身が可愛い、そうごちて3人を締め出した斑目は全ての話を記憶の彼方へと投げ捨てた。



狗神赫犬→八番隊平隊士
熊森土潤→八番隊四席くらい
白樹冬萌→三番隊平隊士
仙界シノブ→十二番隊平隊士
水那月玲→三番隊平隊士

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私も考えて欲しくなってきました……。

鶴葉の手控

Vtuberとして、山伏として。 日々忙しい鶴葉のてびかえ。 日記だったり、お話だったり したためていく場所です。

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