【pkmn】いじっぱりアオガラスとタクシー会社の末娘【#鶴葉書】


エンジンシティの片隅に、アーマーガアタクシーを経営している事務所がある。ここが私の住んでいる自宅でもある。そして、お客様を乗せるためのゴンドラを管理するのが裏にある倉庫で、私は今一匹のアオガラスとそこにいる。

「あーあ……。」
「グルル……。」

お腹空いたーと言えば、隣でむくれている、ように見える気がするアオガラスがグルグルと何かを不満げに訴えていた。

「貴女も馬鹿だよね、脳死で働けば褒めてもらえるし、ご飯も貰えるのに。」
「ギャウッ!」
「な、なんですか……当然のことを言ったまでじゃない。」
「グゥ……。」
「分かってますよう、それが出来ないからこんな所で2人仲良く閉じ込められているんですよね、はいはい。」

私たちは絶賛お仕置きと称して、自宅裏倉庫に軟禁中だ。両親は仕事で忙しく、優秀な兄と姉みたいになれない私は、常にこうして誰かから怒られて生きてきた。
私は家業が嫌いだ。ポケモンを、アーマーガアを足のように使って人間の利益とするのはちょっと違う気がする。もちろん、アーマーガアにもそれ相応の報酬は上げているものの、意思疎通なんてあってないようなものだ。だからこそ、こうやってお客様を運ぶための仕事を嫌がるポケモンだって出てくるのだ。

「私も……ジムチャレンジ、したいなぁ。」

私がこうなったきっかけは、今年のジムチャレンジのエンジンシティジムリーダーの推薦枠にチャレンジしてみたいと言ったことだった。毎年何度も言うものだから、ついぞ長兄の地雷を踏み抜いた。ウチはポケモントレーナーにするために育てていない、と。私とてアーマーガアタクシーの乗組員になるために育てられたわけ……でもないような気もしないけど、つまりは嫌なのだ。
そして、隣にいるアオガラスもその一匹だった。

「ねーえー、アオガラスはさぁ、なんで嫌なの?」
「ガウッ。」
「いやー……そういう風に我々育てられてるんだからしょうがないよ。」
「ギャアッ!」
「いてててて!?ちょっと!?なんで!?」

いじっぱりな女の子のアオガラスは私によく似ている。こうして倉庫に閉じ込められるのは何も1度や2度ではなかった。頻繁に長兄に引っ張られた先には、大体この子がいた。

「戦いたい?」
「ガァッ!」
「違うんかい!運びたくないだけなの?」
「……グゥ。」
「そっか……自由に、かぁ。」

彼女とてやりたくない訳じゃないのだろうか。ちらりと視線を上げれば、そこには熱中症対策なのか、倉庫の天窓が少し開いている。アオガラスに視線を送ると彼女もじっとそこを見つめている。気付いた時には体が動いていた。

「っだぁ……やっと出られた。」

紆余曲折があったものの、ゴンドラを重ね、乗り継ぎ足場にして、狭い隙間にねじ込んだ体を出した。夕暮れも過ぎ、月が照らすエンジンシティは、変わらずに蒸気で少し曇って見える。一人悪戦苦闘する私を見捨てずに居てくれたアオガラスが倉庫の屋根にへたりこむ私の傍で頭を乗せてきた。

「ねぇ……いつか、私と一緒に戦ってくれる?」
「……。」
「そしたら、好きに飛んでいいよ。一度でいいの、貴女のその強さを絶対に活かしてみせるから。」
「……。」
「あぁ、でも……貴女の背に乗ってみたいなぁ。」

月に輝く赤い目を見つめれば、ギャウ、と小さく鳴いた。

「戻ろっか。」

その後心配した姉に連れられて家に戻った私は、それからもう二度とジムチャレンジのことを口にすることはなくなった。大人しくアーマーガア達の世話に勤しみ、お客様たちの対応をこなした。その影でこっそりいじっぱりアオガラスと特訓と称して夜中にワイルドエリアに繰り出すことが増えていた。
しかし事態は突然急転する。
夏の盛り、疲れていたことは否めなかった。慣れない仕事が続き、更には出動も増えていた。そんな中で一人と一匹で飛び出したワイルドエリアは酷い砂嵐だった。

「アオガラス、だめ……っ、帰ろうッ!」
「ギャアゥ!」

砂嵐の中で見えた影は強大だった。バンバドロ、紙ものの図鑑で見た事のあるそのポケモンは、およそ今のアオガラスでは太刀打ちできない相手だった。
それでも、まるで私を守るかのように足を地につけ、プレッシャーを放つアオガラスに私は迷いなくモンスターボールに手を掛けた。その瞬間、バンバドロのじならしが私たちを襲った。

「っ、あ……うそ……!」

取り落としたモンスターボールが転がり、無我夢中で私はアオガラスを抱きしめた。震える地面からその体を掬いあげ、走り出す。途中、足を取られて転がるものの、それでもアオガラスを離さず、ただ立ち上がり続けた。

「キュウコン、おにびだ!」

不意に紫色の炎が頬を掠める。それを目で追う暇もなく、何かに襟首を咥えられ、温かな背中に乗せられた。

「大丈夫かい?」
「あ、あぁ……アオ、ガラスが……っ!」
「……なるほど。よし、キュウコン、一度戻って。ガーディ、エンジンシティまで走ってくれ。」

あとはもう覚えていない。ただ、大丈夫だよ、という声を聞いただけで、そのまま意識を失った。いつの間にか、腕に抱きしめたはずのアオガラスは居なかった。


*


「よーし、準備OKですよ。」

あの事件のあらましはこうだ。バンバドロのじならしをなんとか回避した私を助けてくれたのは、エンジンシティジムリーダーのカブさんだった。カブさんのガーディの上で意識を失った私が抱えていたアオガラスは、逃げている途中に、アーマーガアに進化した。カブさんは私がアオガラスが、と言った時にそのアーマーガアの鋭い眼光が見えたという。こうして、無事エンジンシティに戻り、烈火のごとく長兄に怒られて抱きしめ泣かれた。
そして、私はカブさんの後押しもあって、次世代のジムリーダーへの挑戦権を得た。私の他にも【どく】、【じめん】、【はがね】、【でんき】のトレーナーが参加するものらしい。

「行くよ、アーマーガア。」

とん、とあの時取り落としたモンスターボールを叩けばやる気が満ちた声が聞こえた気がした。
私はひこうタイプのジムリーダーになるべく、新たな一歩を踏み出した。



いじっぱりアーマーガアとひこうタイプの使い手


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ストーリー考案:まめ【@mame_yousei】

鶴葉の手控

Vtuberとして、山伏として。 日々忙しい鶴葉のてびかえ。 日記だったり、お話だったり したためていく場所です。

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